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気が付いたら猿になっていた俺

瞼が重い。

真っ黒な暗闇の中に俺はいた。

なんで瞼が開かないんだろう?

苦労してもがいてみて、やっと瞼が開いたと思ったら、今度は目の前にどんよりと曇った空が広がっていた。

「うきぃ……」

文句を言おうとして、思わず口を押さえる。

あれ? 言葉が話せない?

焦って何度試しても、結果はまったく変わらなかった。

「……」

一体どうなっているのだろう? 

数え上げればきりがないが、そもそも今、口を抑えているはずの手の感触からすでに変なのだ。

擬音にすると「もじゃぁ」。

なんだこの変な感じ?

あわてて確認してみると、俺の手の平は赤ん坊の手のように小さく。

……そしてなんだか毛むくじゃらだった。

「うきゃぁ……」

もうとりあえず叫んでおくことにしよう。

幸い叫ぶだけなら問題ないようである。ちくしょう。

俺はいよいよ混乱してきた頭を左右に振った。

……落ち着け俺。

こんなことをやっている場合じゃない。

こういう時こそ冷静になる事が重要だと、TVの災害特番とかでも言っていたじゃないか。

混乱をどうにか押さえつけて、俺は状況を整理する所から初めてみる事にした。

まず、事態ははっきり言って異常事態だ。

あまり記憶力は良い方ではなかったが、この時ばかりはさすがに俺も一生懸命記憶を手繰り寄せた。



俺はさっきまでごくごく一般的な高校生だったはずだ。

俺の通う高校は緑のとても豊かな……簡単に言えば随分と山の中に建っている学校だった。

そのおかげで通うのも無駄に大変だというのが生徒内の共通認識だったくらいである。

猪とか猿なんかも普通に出没していて、「一体どんだけだよ」と友達とよく話していたのを覚えていた。

そんなある日の事だ。

俺は下校中、この日も野生の猿が学校に迷いこんで来ていたのが目に付いたんだ。

……ああそうだ! あの時、事故があって!

思い出したのは、大量の資材が雪崩のように迫ってくる光景だった。

体育館改装工事用の資材置き場が崩れそうになっていて、猿が下敷きになりそうだったから……思わずかばったんだっけ?

享年17歳。

まだぴちぴちの青春真っ盛りであった。



……なんて、回想風に言ってみたりして。

だがそこから先は、なぜかぷっつりと記憶が途絶えていた。

どうにも現状と記憶がつながらない。

だってここはどう見たって校舎でもなければ、病院のベッドの上でもないんだもの。

自分の身に起こった事態が、これほどまでに謎というのもめずらしいと思う。

「うきぃ……(はは、どうせ夢なんだろう?)」

俺は自嘲気味に笑って、ほっぺたを抓ってみたけど、……超痛かったよ。

早く帰ってワンピースの新刊を買いに行かなくちゃ行けないだけどなぁ……。

俺のささやかな逃避は、ギャアギャアとなんともけたたましい獣の鳴き声によって現実に引き戻されたるのである。

「……」

そもそも、ここはどこなのだろうか?

見ためからズバリ言うと……ジャングルなんだが。

右を向いても左を向いても、お目にかかったこともない謎の植物が生い茂っている。

それにしたっていきなりジャングルはないと思うんだよ。

日本国内でジャングルを探す方が難しいと思うのだが、理不尽とはいつからそんな突発的な奇跡を起こすようになったんだ?

せめて人里にしてくれ。

それが今の俺の心からの願いだった。

ここらで、少々精神が限界気味なのでとりあえず深呼吸。

無駄においしい酸素を深く肺まで吸い込んで、俺は改めて周囲を見回してみた。

しかし見れば見るほどジャングルの入り口とか、そんな生易しいレベルの場所ではない。

完全に奥地である。

なんでこんな状況になったのかはわからないが、縮んだ体を見るかぎり、どこかの誰かに子供か何かにされて、挙句捨てられちゃったのだろうか?

赤と青のキャンディを飲んだ覚えも、黒尽くめの男達に薬を飲まされた記憶もないんだけどなぁ。

子供になった時点で非常識この上ないが、実際なってしまったのだからしかたない。



……で! なったとして!

どういう経緯であれ、こんなところに子供を捨てるとかどんな鬼畜だ!?

おまけに籠に入っているわけでもなければ、タオルケットの一つもない。

完全に全裸ってそりゃないんじゃないか!?

俺のマイサンも野ざらしなのだ(泣)

あまりの理不尽に絶望し、地面の一つも叩いてやろうとしたら、周囲の地面が真っ黒なのに気が付いた。

自分の周囲が焦げているのである。

かといって体が痛むわけでもなければ、火傷があるわけでもない。

なのに辺りの木々はなぎ倒され、大きな岩の破片がごろごろと転がっている様子はよほどの事があったように見えた。

極めつけなのが、なんだか妙な感覚が尻の辺りにあること。

そう、まるで腕がもう一本生えたみたいな妙な感覚だが……。

自由に動くみたいなので、目の前に持ってくると。

「うきゃう!!」

思わず俺は悲鳴を上げてしまった。

なんか尻尾生えとる!

どうなっとんのじゃ……。

この時の俺のすばやさは、きっとそんじょそこらの野生動物など目じゃなかったと思うね。

根性で身体を持ち上げ、近くに聞こえた音を頼りに、水場に向かってハイハイをすると、ようやく見つけた水面に映る自分の顔を確認して、いよいよ完全に俺の思考はフリーズした。

「うきぃ!!」

完全に猿の惑星だったのだ。

俺の顔面が。

(ああなるほど、つまりはこういうことか……)

俺、なんか猿だね。

お尻の尻尾に毛深いお肌。

どこからどう見ても猿以外の何者でもない。

「うきゃきゃ!!(なんだってこんなことに!!)」

おちついてって……これが落ち着いていられるか!


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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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