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お金の錬金術師

*鋼の錬金術師の二次創作です。
しかし、原作キャラは全く出てこず、世界観だけ借りたお話なのでご注意ください。 




何かを得るためには同等の代価が必要になる。

 それは錬金術における等価交換の原則。

 この頃すでに私達にとって……それは世界のすべてではなかった。



 真っ暗な空間に小さな蝋燭の明かりが頼りなく揺れていた。

 あちこちから隙間風が吹き込んできて、蝋燭の上で揺らめく炎の寿命もそう長くないことだろう。

 唯一の家具である木製のテーブルには、「何もここまで」と思わず言いたくなるほど小さくカラカラな干し魚が一匹。

 しかもこれは食べてはいけない。

 「見るのみ」という、絶対に食とは関係ない方法でおかずにし、最後の残ったカビパンを水に浸して食べるのである。

 それを小柄な少女が二人、食い入るように見つめていた。

「……お腹すいたよ、姉さん」

 ポツリと、思わず呟いてしまったそんな台詞。

 室内は静まり返る。

 はっと気がついた時には、もう遅かった。

 唸りを上げて迫る肌色の物体に、肌があわ立つ。

 飛んできたのは優しい言葉などではなく、抉りこむようなスクリューアッパーだった。

「ぐふぉ!!」

 派手に吹き飛ばされる金髪の小柄な少女、ミシュア=エルリックはそのままダンボール製という非常に簡素な壁を突き破り、肌寒い外へと放り出された。

 しかしミシュアはダメージでふらつきながらも、どうにか立ち上がって、殴られた頬を押さえて涙ぐむ。

「痛いよ、姉さん……」

 そして涙をこんもりと溜めて堪える姿は、万人が手を差し出したくなる事だろう。

 しかし殴った張本人である同じく金髪の少女は、肩を怒らせながらびしりと妹を指差して叫んだ。

「当たり前でしょう! 殴ったんだから! それに……」

 グー。

 張り詰めた雰囲気をぶち壊す大きな音が、その姉。ファーロング=エルリックのお腹から盛大に鳴り響いていた。

「お腹だったら私も空いてるっての……」

 ポツリと呟くように言った彼女の言葉は、空しく、だがはっきりと夜空の下聞こえるのだった。

 そのままうつむき、震える姉をおろおろとミシュアは見つめるばかりだ。

 あの気の強い姉さんが泣いてる?

 不安になり、姉の顔を覗き込もうとすると……。

「そうよ!」

「ぐふ!!」

 姉は猛烈な勢いで顔を上げ、後頭部で顎を強打される。

 ミシュアは、あまりの痛みに転げまわった。

「姉さん、何するのさ!」

 顎をさすりながら復活したミシュアだったが、顔を上げたところで信じられないものを目撃し、また泣きそうになってしまった。

 ちょっとちびったかもしれない。

 ファーの瞳は燃えていた。

 涙を流すどころか、激しく燃え盛っていたのである。

 ミシュアは恐怖のあまり硬直した。

 闘志に燃える姉の表情は、まるで悪鬼のように映り、本気で泣きそうだったりする。

「もう我慢できないわ。……ミシュア! 行くわよ!」

「行くって? ……いったいどこへ?」

 言い切る姉に、恐る恐る尋ねる。

 唐突に何かを決意したらしい姉は、明後日の方向を指差し。

「セントラルへ行くのよ! あそこに行って……」

 そしてガッと拳を握り締めたかと思ったら、天に向かって突き上げると、神に宣言でもするかのように高らかに言い放った。

「何が何でも一発当ててやるのよ!!」

 そんな姉を、ミシュアはただただ呆れた顔で見ていることしか出来なかった。





 その後、二人は家を焼いた。

 乾燥した冬空の下、ダンボールハウスはよく燃える。

 それは、もう二度とここへは戻らないという決意の証。

 もう後には引かないという覚悟だった。

「まず最初にセントラルで錬金術を勉強するわよ! 名前に金の字が入ってるのが気に入ったわ」

「う、うん、そうだね……。僕もがんばってみるよ」

 ミシュアは慌てて頷く。

 姉妹はそれから燃えるダンボールハウスを、振り返ることはなかった。



 ……おかげで放火の疑いで捕まりそうになったけど。





お金の錬金術師






 薄暗い部屋の中、独特の重苦しい空気が満ちていた。

「これで鉛の準備はいいわね……そっちはどう?」

 狭い部屋に申し訳程度においてある本棚と机、そして部屋中には所狭しと本が積み上げられている。

 タイトルで目を引くのは、錬金術というキーワード。

 同じくらい、図書館の所蔵本である印も多いが、そこはご愛嬌としておいて欲しい。

 錬金術とはこの世界で最も発達している科学技術である。

 部屋の本は、その技術について述べているものが大半を占め、特に金属に関する書物がもっとも多い。

 すべてはある計画のため、そのために姉妹が学んだ血と汗と涙の跡だった。

「うん。……錬成陣も完璧だよ」

 ミシュアはチョークを片手に満足そうに額の汗をぬぐった。

 部屋の中央。

 その無理やり空けたスペースには、大きな円陣が描かれている。

 そして、細密に描かれた模様もあわせて、それが錬成陣と呼ばれるものだと見るものが見ればわかるだろう。

 錬成陣の中心には、真っ黒で鈍い光沢を放つ粉末がうずたかく山を作っていた。

「とうとうこの時がやって来たわ……。ミシュア」

 準備を終え、テンションが駄々上がりの姉、ファーはいわゆる「どや顔」で隣にいるミシュアの方を振り返る。

「う、うん」

 そんなファーに、ミシュアは緊張で硬くなった顔のまま頷いた。

 この二人、姉のファーロング=エルリックと妹のミシュア=エルリックは軍事国家として名高いアメストリスで軍人をしている。

 身につけている、青い軍服がそれを示していた。

 すっかり成長した二人は、美しい金髪とブルーの瞳は共通しているが、姉のファーは長い髪をポニーテールで後ろにまとめて気の強そうな目つきをしている。

 対して妹のミシュアはショートでさっぱりとしているが、どことなく優しげな風貌なのでわかりやすい。

 二人とも美人と称しても差し障りはない少女だった。

 整った顔立ちは十人に七人くらいは振り返るかもしれない。

 ただ、彼女達に声をかける男は既にこの町には存在しないだろう。

 かかわってはいけない、ハチャメチャ姉妹。

 今話題の鋼の錬金術師とひっかけて、「悪いほうのエルリック」などと仲間内ではささやかれていたりするのだ。

 そして今日もまた、主にファーの主導により、ある作戦が進行中である。

 しかし、今回はいつもの悪巧みとは一味違う。

 それは姉妹にとって、悲願とも呼べる計画だった。

 しかし目の前に積まれている鉛を見つめて、ミシュアはなんとも複雑な表情を浮かべていた。

(何で僕こんなことしてるんだろう?)

 そう思わずにはいられない。

「孤児として施設に入れられるのがむかつく」という理由で、孤児院に入れられたその日にファーが脱走し、ミシュアが無理やりつき合わされた所からすべては始まった。

 橋の下暮らしに嫌気が差し、都会を目指すという暴挙に出て……、わけもわからないうちに五年。

 もうそんなに経ってしまった。

 それまでの苦労を思えばミシュアも感慨深いところはあるわけだが、虚しさを感じないわけではない。

 そして隣のファーもまた、目じりに涙を浮かべている。

 こちらは完全に感動の涙らしく何か呟いていた。

「うぅ。ついにここまで来たのね……。耐えがたきを耐え、忍びがた気を忍び、給料目当てで軍の犬に成り下がってから今までに味わった訓練と勉強の日々……。辛かったわ。
でも私は忘れない。食堂のスープのあの不味さや、よく罰で掃除させられたトイレの臭さも……。
ハムはやめたがいいと思うとか、狙いをはずしたら片付けろなんて愚痴、もう私は言わなくて済むのよ……」

 ファーの呟きは、明らかにずれていると思う自分はおかしいのだろうか?

 きっと感激のあまり大事なところのバランスが崩れたのだろう。

(……もっとも、いつものことだけど)

 ミシュアは変な感じに納得しながら、そんな姉に呆れていた。

 ファーの叫んでいる通り、あれから二人は給料とそれなりの特権目当てに軍に入隊した。

 一兵卒の数少ない権利を利用して、市民権を手に入れたファーとミシュアは、そこで必死に錬金術の勉強をしたのだ。

 雨の日も風の日も、それこそ炎が降ろうが、石の槍が飛び出そうが、がんばった。

 もともと才能があったのか、とにかく二人はめきめきと実力を付け、今こうして姉の立案した唯一絶対の極秘計画のためにその技術のすべてを使おうとしているのである。

 それすなわち、黄金の練成。

 だが実はそれは、恐ろしく高いリスクを背負うことになるのだが……。

「ねぇ、姉さん? やっぱりやめといた方がいいんじゃないかな?」

 弱気に言うミシュアの心配を他所に、快活に笑うファーは、完全に自分は大丈夫だと信じ切っているようだった。

「ばれなきゃいいのよ。ばれなきゃ♪」

 そして実に楽しそうにあっけらかんと言ってくれるのである。

 姉は何気にすごいとは思う……見習いたくはないが。

 しかしその姉の態度がまたミシュアの不安をあおるのだった。

 簡潔に言おう。

 黄金の練成。それはきっぱりと犯罪です。

 人体練成と共に法律で硬く硬―く禁止されている、錬金術最大のタブーなのです。

 錬金術の勉強を始めれば、否が応にも知ることとなる根本的なこの決まりを、我が姉のファーはまるでないものかのように無視してくれているのだ。

 その理由はファー曰く、「決まりごとなんて、ばれないように破るためのもんでしょ?」とのこと。

 この台詞を聞いた時には、いかに付き合いが長い妹と言えど、クラリと目眩を起こしたものだった。

 そんなこんなで、勢いだけでここまで来てしまったわけだが、それでも計画が終わるこの時まで、ついにたどり着いたというのは素直に喜ばしかった。

 目の前の姉が用意した出所不明の大量の鉛と、これまた姉さんの考えた理論を元に作った錬成陣には、一部の隙もない。

 残念ながらというか、すごいといえばいいのか、ミシュアから見ても、その錬成陣は完璧だった。

 気は進まない。

 進まないが、悲しいかなミシュアは姉の性格をわかってしまっている。

 そして知ってしまえば、後は被害を最小にとどめることが最良であるという答えも漏れなくくっついてくるのである。

 ミシュアは覚悟を決め、キッと目の前の錬成陣を睨みつけた。

 そして静かに両手を錬成陣の上に乗せ、今まさに練成開始というそんな時……。

「なんか……このまますんなり成功しちゃうのはもったいないわよね」

「はい?」

 ぼそりと聞こえたそんな姉の呟きに、ミシュアは仰天して表情を強張らせる。

 何を言っているんだろう、この姉は?

 これ以上何をするっていうんだ? もう十分じゃないか……!

 声にしようと思っても、ぎょっとしすぎて声にならない。

 ミシュアは無造作に間を詰めてきた姉に平手で背中を強打され、盛大に咳き込んだ。

「あっはっは。何か今とんでもないこと考えたでしょう? そんなたいしたことじゃないわよ! ただ前祝がしたいなって!」

「いい加減にしてよ姉さん! 今、僕達犯罪者一歩手前なんだからね! 少しでも早く終わらせたいのに、この上何をしたいって言うのさ!」

 それはミシュアの心からの叫びだった。

 その願いは切実な分、思いのほか迫力が出たようで、ファーも思わずたじろいだ。

「おぉう? 言うわねミシュア。いやちょっと甘いものでも食べたいかなーって……」

「なに考えてるのさ! もう、僕知らないからね!」

 ファーの信じられない提案に、ミシュアは今度こそほんとに気が遠くなった。

 そんなミシュアの気分を知ってか知らずかファーは唐突に真面目な顔になって、ミシュアを諭すような口調で肩に手を置く。

「………ミシュアいい?」

「ちっともよくない!」

 それをミシュアは一刀両断した。

「うう……取り付く島もないわね。まぁ、落ち着くといいわ。そんなにイライラしてると老けるのが早いわよ? こればかりはいくらお金があったっておのずと限度が……」

「イライラの素に言われたくありません!」

「うーんもう、ミシュアちゃ~ん。機嫌直してよ~。ほらいい感じの金融ルート教えてあげるからー。
これなら危険も割と少ないしー」

 そんなことをいいながらあせった姉の差し出した手帳を見せられて、ミシュアは絶句した。

 表紙にでっかく門外不出とマジックで殴り書きしてある毒々しい紫色のノートには、確実に表紙の毒々しさに勝るに違いない文字の羅列が、所狭しと書き連ねてあったのだ。

 ぱっと見ただけでも武器がどうの、弱味がどうのと……、いや僕は何も見ていない。

 今見たことは記憶の奥の方に封印することにした。

「……お願いだから、そんな禍々しい悪魔の書物はしまって。あと僕をくれぐれも巻き込まないで」

「えー。儲かるのに」

「えーじゃない! まったく姉さんは! そんなにがめつくなってどうするの! ……なにしてるかなんて聞きたくはないけど」

「教えようか?」

「聞きたくないの! とにかく! もうしっかり儲けてるみたいなのに、なんで僕まで巻き込んで金の練成なんて危ない橋渡る必要があるのさ! 意味無いじゃないか!!」

 これ以上犯罪の肩場を担ぎたくない。 

 その一心でミシュアはささやかな抵抗を試みた。

 それは焼けた石にスポイドで水を落とすようなものだとは知りながら。

 だがファーはミシュアのささやかな抵抗に対し、意外にも口ごもった。

 意表を疲れたミシュアは警戒の色を濃くする。

「……それはやっぱり家を焼いたあの日、誓った最初の目標だからかな……。約束は守りたいじゃない、やっぱり」

 恥らうように、照れるようにファーは今までの態度を引っ込めて顔を赤くしていた。

 いい話に聞こえるかもしれない。

 本当に照れているかのように、そしていかにも本音のように聞こえるそれは、ブラフ。

 微妙な沈黙が姉妹の間にあった。

 そして絶妙な間の後、氷のように冷え切ったミシュアの声に容赦など存在しない。

「……で?本当は」

「……やっぱりー。資金源は多いに越した事無くってぇー」

 ごまかしは効かないと悟ったその瞬間、ファーはとことん開き直った。

「だって! ミシュアも知ってるでしょ! 時計見たら限定ソフトクリームが発売しそうだったの! 
今行かないと間に合わないの! ちょっと見張っててくれれば問題ないでしょうが!!」

 そういうことでもあったらしい。

 ミシュアは言い返す言葉も思い浮かばず、黙って青筋を浮かべた。

 この姉、よほど子ども時代の糖分が足りなかったのか、いまや無類のお菓子好きなのだ。

 西に限定品があれば飛んで買いに行き。東に新製品が並んだと聞けばイラスト付きでチェックする。

 それはもう町の端から端まで、国の隅から隅までな勢いなのだ。

 しかしそれとこれとは完全に話が別である。

「もう姉さん! たかがお菓子程度のことで、今の状況と天秤に掛けられるわけないじゃないか!」

 ここまで私欲に走られるとむしろ気持ちがいいくらいだが、実際に実行に移されるとなれば冗談ではない。

 とにかく万歩譲って、協力してばれないようにしようと言っているのだから、このくらいの抗議はミシュアに与えられた当然の権利だ。

 しかしファーはこの期に及んで、チッチッチと立てた人差し指を小刻みに揺らし、わかってないなと頭を振った。

「ミシュア、それは違うわ!!」

「…何が?」

「つまり、女にはね? ここぞっていう時にやらなきゃならないことがあんのよ。
それは他人から見ればくだらないと思えることかもしれない。
でもだからこそ、やり遂げなくっちゃならないの。わかるかしら?」

「………で? 姉さんは甘いものを食べに行くと?」

「そういうわけなの☆ 大丈夫よ! 誰も来やしないから! じゃあ留守番お願いね! お土産は期待していいわよ♪」

「あぁ! ちょっと姉さん!」

 バタンと扉がしまる音がする。

 結局はこうなるのか……。

 ミシュアはあっという間にドアの向こうに消えた姉の背中に、伸ばした腕を力なく下ろす。

 結局のところ自分に暴走する姉を止めるすべはないらしい。

「ああもう! 僕はなんて無力なんだ!」

 頭をかきむしりながら、手足をばたばたさせる。

 コンコン。

 そんな時だ、突然ノックの音が響いたのは。

「すいませーん。借り出されたままの書籍の回収に伺ったんですがー」

 ミシュアはピシリと固まった。




「……もうミシュアは、頭が固いんだから」

 そう愚痴りながらファーはソフトクリームをぺろぺろ舐める。

 一日限定百本の、百パーセント天然素材。

 高原生絞りの名に偽りはないようで、クリーミーな舌触りとマイルドな味わいは他のアイスと一線を画していた。

「あそこまで準備出来てたら、もう大丈夫だってのに。
作業前に糖分とったほうが成功率上がるってモノよね。これも等価交換なのかしら? 
でもやっぱりここのソフトは格別ねー。今度新製品の抹茶もチェックかなー」

 手には御土産用に見繕ったケーキの箱が二つ。

 どちらもファー自らが、大人気のお店から選りすぐったトップテンスイーツがぎっしりばっちり詰まっている。

 そのラインナップはまさに完璧であった。

「お土産はこんなものよね。しかし私の天才っぷりが恐ろしいわー。
最近有名な最年少の国家錬金術師にだって勝っちゃうんじゃないかしら?」

 ファーは一人ムフフと不気味に笑いながらご満悦だった。

 黄金練成計画。

 材料のルートは綿密な計画の上、そう簡単には足なんて着かないように、完璧。

 徹底した秘密主義で妹以外には絶対に漏らしていない自信があった。

 その後の資金繰りも、考えうる限り最善の方法を計画しているつもりである。

 こればかりは蓋を開けてみなければわからないが、大成させる自信はあった。

 今まさに、大富豪への道が自分の前に開こうとしている。

 両手には見るも鮮やかなお菓子達。

 これから先、全身がクリームになってしまいそうな甘い日々がまっているのだと思うと、思わずとろけてしまいそうなほど幸せな気分になれた。

「ああ……いいわ。すごくいい。美味しい物だって、甘い物だって食べ放題。……これ以上の幸せなんて考えられない!」

 瞳に星をいっぱい浮かべながら、熱い吐息を吐くファーは、至福の絶頂だった。

 そんな彼女の甘い妄想に、水を刺すようなサイレンの音が街中に響きわたる。

 デリカシーの欠片もない騒音に、ファーは眉をしかめた。

「もう。人がすごくいい気分に浸ってる時に……。この辺も物騒になったもんよね」

 少しだけ野次馬根性が鎌首をもたげたが、さすがにそれはなんとかギリギリあったらしい自制心が待ったを掛けた。

 これ以上遅くなっては、妹から何を言われるかわかったものではない。

「ちょっと気になるけど……。まっすぐ帰りましょうかね。黄金、黄金っと♪」

 ファーは楽しげに鼻歌を歌った。

 口ずさむテンポの良いメロディーが、気分よく紡がれる。

 しかしまだ、ファーは重大なことに気づいていなかった。

 サイレンの鳴る方向。

 そっちにまっすぐ歩いて行っている自分自身に。




「なに?」

 赤いランプの車がアパートを取り囲んでいる。

「なに??」

 蜘蛛の巣のごとく張り巡らされたKEEP OUTの黄色いテープ。

「なに???」

 ぎっしりいる、警官の方々。

 それらを、壁になった野次馬達の中に混じって、ボーゼンと眺める自分。

「あれ? これは一体どういうことだろう? ……待て、落ち着こう」

 自分に言い聞かせるように繰り返し、何度か深呼吸。

 目を瞑って、心を落ち着ける。

 落ち着きなさい私。

 きっとこうよ、何か別の理由でこの人達はここに来ているの。

 きっと同じアパートの別の部屋に、犯罪者でも潜伏していたのね。怖い怖い。

 けして大量の鉛が見つかったり、黄金の練成陣が見つかったりなんてことはないはずよ。

 三度ほどそう言い聞かせてから、ゆっくりと目を開くと。

 目の前には運ばれてゆく、黒い鉛の山があった。どっさりと。

「………………」

 まぁ……、仕方ないわ。見つかったものは。

 でも私の賢い妹のこと、こんなとろそうな奴ら、来る前にしっかり逃げているに違いない。

「ねーさんのばぁかあぁぁぁー!!!!」

 後から両サイドをがっちりと固められ、連行されてくる青い軍服の小柄な少女は、暴れながら叫んでいた。

「…………………」

 去ってゆくパトカーを眺め。

 ざわざわとざわめく人ごみの中、ファーは一つ長いため息を吐いて天を仰ぐ。

「持っていかれた……」

 一言。

 本当に一言、眉間を押さえてそう呟いた。



 数週間後、刑務所で脱獄騒ぎがあった。

 隣で起きた第五研究所の大事件でうやむやになってしまったが。

 その手口は錬金術を巧みに使った、それはそれは見事なものであったとか、なかったとか。





 セントラルからかなり離れたとある砂漠。

 日の光と砂以外何もないそこに、二人組みの姿があった。

「ねーさーん。……これからどうするのさー」

 明らかにばてているミシュアとは対照的に、ファーは照りつける太陽より生き生きしていた。

 元来生命力は人一倍なのである。

「さあね、でもお金儲けなんて人さえいればどこでも出来るわ。今度はどこに行きましょうか? 出来れば美味しいものがあるところがいいけどー。特に甘いものが!」

「……懲りてないんだねやっぱり。姉さんも錬金術師なんだから等価交換の原則くらいは知ってるでしょ? やっぱり無茶するのはよくないと思うんだ」

 ミシュアは、無駄だと理解しつつもため息混じりにそう言う。

 しかしファーはそんなミシュアの言葉に軽く唸ると、頭をかいてこんなことを言うのだ。

「等価交換ねぇ……。私、実はあんまり信じてないのよね。元手より多くしないと意味ないと思わない?」

 自信満々でにやりと微笑む姉の顔は、まぶしいくらいに輝いていたが、ミシュアはガクリとうなだれた。
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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

お知らせ

ようやく「ゼロの英雄奪還日記」と「大海賊時代で一獲千金を狙う猿」のにじふぁん掲載分の転載が終わりました!
にじふぁんで見てくださった方も、こちらで新しく見てくださった方も楽しんでいただけたのなら幸いです。
ちょとずつ修正をしてみまして、かなり時間がかかってしまいましたが形にして残せたのはよかったのではないかと思います。
特に大海賊時代では最後の方をかなり変えてしまったので前回を知っている方は見比べてみても面白いかもしれません。
それではまたの機会にお会いしましょう。

おまけ

「く、くそ……」

俺達は今だかつてないピンチに陥っていた。

体が石のように重い。

いや、石そのものになってゆく。

一番最初に犠牲になったのはファニーだった。

彼女は戦う間もなく無効化された。

あの船と遭遇したのは偶然に過ぎない、しかし海上で遭遇すると言うことはすなわち戦うということだ。

それが海賊船であればなおさらだった。

続いて犠牲になったのはレナだ。俺をかばって……力のない船長を恨んでくれ。

「……美しすぎる」

俺は最後にそう言い残して石化した。

カッキーン

慈悲もなく、ただ当たり前の現象として能力は行使される。

「他愛もない。素直に積み荷を渡さぬからそういう目に合うのじゃ。しかし、わらわは何をやっても許される、なぜなら……」

かの女帝は、あまりにも自然にその美貌を誇り、長い髪を掻き上げそのしぐさだけで黄色い歓声が上がる。

「そうよ! わらわが美しいから!」

宣言した彼女、海賊女帝ボア・ハンコックは噂にたがわぬ美しさの魔力によって、コーン達に牙をむいた。



それはある昼下がりの出来事である。

コーン一行は、新しい船を利用して荷物運びの仕事を引き受けていた。

大きな船を持ち、グランドラインを航海出来るというだけでかなり需要は高い。

新しい船に慣れることも出来るし、一石二鳥の仕事だったのだ。

その航海中、マストの上の見張り台からレナの大きな声が響き渡っていた。

「海賊船発見です! こちらにまっすぐ向かってきます!」

すぐに緊迫した空気が漂うが、しかしその空気にはどこか好戦的なものが含まれていたのも間違いない。

賞金稼ぎを生業としているコーン達にとって海賊は絶好の獲物でもあるからである。

「じゃあ僕は隠れてるね!」

「ああ、流れ弾に当たらないように気をつけろよ?」

人魚のロカは戦闘能力がないため、船の中に避難するのはお約束である。

「レナ! どのくらいで接触できそうだ?」

「ええっと、向こうの船、結構速いです! 何かに船を曳かせているみたいで! 数分で接触されそうですよ!」

「おおっと、そいつは厄介だな。おいみんな! 気を引き締めろ! 戦闘だ!」

コーンの号令でカールとファニーも武装の準備を整え、準備は万端だった。

「へっへっへ、久しぶりの獲物だな。腕がなるなぁ、おい」

「それで? 今回の相手は少しくらい骨があるんだろうな?」

不敵にほほ笑むファニーはカール以上に生き生きして見える。

全員完全に今から起こる戦闘を楽しみにしているようで、コーンはそれに苦笑を浮かべることしかできなかった。

「まぁグランドラインだしな、骨がないなんてことはありえないだろう。レナ! そろそろ旗が見えるか? どこの海賊だ?」

「は……はい! えーっとどくろの周りに蛇かな? それがいくつも描かれてます!」

その瞬間、言葉を失ったのが約二名。

コーンとファニーである。

特にファニーの顔色は青い。

そりゃそうだ。

予想が正しければ、九蛇の戦士であるファニーにとって、もっとも会いたくない船なのは間違いあるまい。

「は、反転だ! 逃亡だ! 今すぐにげろぉ!!」

突然何時ものクールな態度などかなぐり捨てて、必死に慌てだしたファニー。

彼女らしくない様子に、カールもレナ面喰っているようだった。

「どうしたんだ? あんたらしくもねぇ」

「そうですよ、いつもみたいにドーンと構えてくださいよ」

「ばか! あの船は、あの船だけはかかわっちゃいけないんだ! ああもう! コーン! お前船を担いで飛んでくれ!」

「……出来ないこともないんだけどさ。もう手遅れみたいだぞ?」

「へ?」

そう、もう目視できるくらいの距離に巨大な蛇に船を曳かせた海賊船が迫っていたのである。

ファニーはそれを視界に収めた途端、泡を吹き始めた。

「あばばばばばば」

「ファニーさん、なんか変な声出てる……」

さてどうしたものかとコーンは頭を悩ませた。

ファニーもいるし、何とか見逃してもらえないだろうか?

船を抱えて逃げるのもいいが、今日はいい風が吹いているしどうにも分が悪いだろう。

船も大きくなったし。

「まぁ……どうにかなんだろう」

この時コーンにはどこかおごりがあった。

自然系と渡り合った実績。

スーパーサイヤ人にこそまだ自在に変身とはいかないが、今の実力が新世界へ行ったとしても通用するだろうという確信もある。

ついでに絶世の美女を見てみたいなんて好奇心。

コーンは侮っていた。

海賊女帝の美しさと、それを補って余りある傍若無人さを。



「だれじゃ? わらわの進路に船を置いたのは?」

「は! はい!! 申し訳ございません!!」

マッハで謝るファニーさんェ……。

「……ファニー、いきなり謝らなくていいから。今は敵だから」

「いやいや、敵と言うのは早計だろう? 私がまず話してみる! どうにか見逃してもらえるかもしれん!」

やる気満々のファニーには悪いがそれは望み薄な気がしてしょうがない。

「すぐにお前たちの積み荷をすべて渡せばよし。そうでないなら海の藻屑となってもらうが?」

「……本当に?」

「いや……今こうしてここにいる時点で掟に反しているからなぁ」

「だめじゃないか? それ?」

ファニーはしょんぼりと肩を落とした。

どうやらダメなようだ。

第一ファニーはどう見ても自信なさげで、がちがちに緊張していた。

こうなれば船長っぽいところを見せねばなるまいよ。

コーンは一歩進み出て、声を張り上げた。

「俺はコーンと言う者だ! この船の船長をしている! 話し合いがしたいがどうか!」

「おいおい! 相手は海賊だぞ? そんなの通じるかよ!」

慌ててカールが肩を掴むが、コーンはそれに静かに首を振った。

「わかっているけど、仕方ないだろ? ファニーを同郷の仲間と戦わせるわけにもいかないだろうし」

「そりゃわかるが……」

ところがどっこいそんな俺のまごころも、唯我独尊を地でいっている女帝様には通用しないようだった。

「却下じゃ。話にもならぬ。なぜわらわが貴様らなどの言い分を聞かねばならぬのじゃ? 男と言う者は頭も悪いと見える」

ですよねー。

ただし、こっちもそんな答えは想定済みである。

それならばわかりやすくこちらの意図を伝えるとしよう。

「なら……こっちにも考えがある」

コーンはすぐさま気を練り上げて、右手から気功波を撃ち放った。

青白い気功波はそのまま海に着弾すると、爆音を轟かせ小山のような水柱を上げた。

「……とこのように、こっちには今すぐそちらの船を沈める用意がある」

威力は申し分ない。

はったりでないことが分かったのだろう、ハンコックの表情は一瞬こわばり、しかし平静を取りつくろって頷いた。

「……なるほど。満更実力がないと言うわけでもないのか。いいだろう! 話し合いの席を設けよう!」

「感謝する」

「すげぇ力技で持って行ったな」

「だけど有効だろ?」

どうにか話し合いには持って行けたがどうなるか。

最悪積み荷は失うかもしれないが、七武海を相手取ったと言えば賠償金くらいでどうにかならないだろうか?

自分達の財宝はちゃんと下しておいてよかったと内心ホッとはしていたがとても喜べはしないだろう。

ハンコックらしき人影はすぐに準備を整えたようで、巨大蛇の頭の上に乗ると数人の護衛を引き連れて、こちらの甲板に渡ってきた。

しかし驚かされたのはそこからだ。

至近距離で見る海賊女帝のそのあまりの美しさにである。

身長はかなりのものだというのに、その肢体のバランスは神がかっており、すべてひっくるめて芸術のような均整を描いている。

何よりその顔立ちは、表情も含めて自信に満ち溢れ、それにふさわしい気品を備えていた。

なるほど、確かに絶世の美女とは彼女のためにある言葉だと誰もが納得する美しさだった。

「九蛇海賊団相手に話し合いの席を持とうとはその意気やよし」

そう言って切なげなため息をつくボア・ハンコックは殺人的にかわいかった。

「キャー!! ハンコック様ー!」

九蛇海賊団の面々からも歓声が上がる。

「キャー! 素敵すぎですハンコック様!!」

ファニーもいつの間にか一緒になってキャーキャー言ってるのだが、どうしたものか。

「……はぁ」

だめだ、今日のファニーは役に立たない。

しかし侮ったな俺。

至近距離で見る絶世の美女と言うやつは掛け値なしに美しく、正直コーン自身にしても相当な威力を発揮してくれているのだ。

いけないとは思いつつ、顔が赤らむのを感じる。

それがわかってしまったのだろう、ハンコックの視線はすっと細まり微笑をたたえていた。

「しかし、話しあいと言うのは嘘じゃ。わらわに見とれるやましい心がそなたの体を硬くする……」

ハンコックは澄ました顔でそう告げると、大きくのけぞり両の手のひらでハートを形作る。

これは……!。

「もう! なにみとれてるんですか! コーンさんのエッチ!」

いきなり俺の前に飛び出したレナは、次にハンコックに詰め寄ろうとするがこれはまずい。

「ちょっとあなた!……」

「そなたはわらわをどう思う?」

突然投げかけられた質問にレナは不意を突かれて言い淀む、そして狼狽えながらも顔を赤くした。

「え? それは……ちょ、ちょっときれいだとは思うけど」

しかし、その程度の動揺でも悪魔の呪いには十分だった。

「メロメロ甘風!!」

かっちーん!

飛んできたハート型の光線にコーンは咄嗟に指の骨を折った。

痛みで邪念を吹き飛ばすが、仲間達までそう器用にはいかない。

時すでに遅く、レナはもとよりファニーまで石化してしまっていた。

もっともファニーに関してはすごく幸せそうな顔だったが。

「……ぐ、おいおい同郷の仲間もいるだろうが? あんた、ためらいとかないのかよ?」

「ふん。そのようなもの持ち合わせてはおらん! 男の船に乗るようなものにはなおさらじゃ!」

ハンコックはのけぞって俺を指差す。

おお! これは!

「ああ、ハンコック様が見下しすぎて逆に見上げている!」

「出たわ! 見下しすぎのポーズ!」

なんて感動している場合じゃない。

早く船を沈めてしまわないと!

気功波を撃ちだそうとするが、コーンの視線はすでにハンコックに吸い寄せられていた。

「無駄よ……。そなたはわらわからもう目を離せない。なぜなら……そう! わらわが美しいから!」

普段ならたやすくかわせるはずの光線をかわせない。

ああもうかわいいな!

それは敗北と同義だった。

こうして俺達は石になる。



……。

「なぜじゃ! なぜ! 貴様は石にならん!」

「へ? なんかしたのか?」

そう……たった一人を除いて。




なんだかみんな石になって困ったことになっているんだが……どういうことなんだ? これ?

俺ってば全然平気だし。

カールは分けもわからず事の成り行きをぼんやり眺めていた。

そんな俺を見て、なんだか相手の海賊達がうろたえている。

わけがわからない。

「おい、あんた達。話しあいって話じゃなかったのか?」

「なぜじゃ! なぜあの男にはわらわの力がきかん!」

「コルゴンの力が効かない人間がいるなんて!」

「おそらく恐怖が先たって邪念をかき消したんだわ! 情けない男!」

「そ、そうじゃな! そうでなければわらわに見とれぬ男などいるわけがない!」

焦っている海賊女帝はもう一度さっきと同じ妙なポーズをとってくる。

「メロメロ甘風!」

またビームが飛んできたが……。

「……?」

「「「?」」」

変化がない。 

なんだかあんまり意味がないようだ?

しかしカールはなんだか薄々この能力に見当がついてきた。

当然こいつは悪魔の実の能力なんだ。

ハンコック自身が「見とれる」とかどうとか言っているところを見ると、彼女に見とれてさっきの光線を浴びることが石になってしまう条件らしい。

だとしたら、そんなものがこの俺に効果があるわけがない。

そう、効くわけがないのだ。

「はっ! 当てが外れたようだな。あんたの攻撃は俺にはきかねぇ」

「な! なぜじゃ! わらわに見とれぬ男など!」

俺の言葉に動揺が頂点に達しているハンコックに、俺はズバリ言ってやった。

「はん! 十五歳以上のデカ女に俺の心が毛筋一本ほども動かされるわけがねぇだろうが! 十年遅いわ!!」

ドン!

俺は言い切った。

これ以上ないほどに。

それは俺の確信で、そして何者にも譲れはしない真理である。

もしこの攻撃で石になるならば俺は死を選ぶ、そういう男で俺はありたい。(キリッ)

「……はぁん」

とたんハンコックは青い顔で崩れ落ちた。

カール完全勝利の瞬間だった。

「「「ハンコック様!!」」」

「姉さま! しっかりしてください!!」

「お、おのれこの変態め!!」

「だれが変態だ! 俺は紳士だっつーの! それにお前ら! 船を沈められるのがそこのやつだけだと思うなよ! 木造船なんぞ一瞬で木屑にしてやってもいいんだぜ? それが嫌なら仲間を元に戻してとっとと帰れ!」

「戦士達よ! この男を仕留めろ!」

何人かの女達は殺気立ち、武器を手にして斬りかかってきたが。

「つぶれてろ!」

ここからははっきり言ってカール無双だった。

今やこの能力を前に耐えられるのはコーンのバカ筋肉ぐらいしかありえない。

能力を発動した途端、俺の鍛え上げられた重量操作は九蛇の戦士達に地面へのキスをプレゼントしていた。

さらに船に負荷をかけてやる。

するとミシミシと嫌な音が船全体から響き始めて、九蛇海賊団は途端に慌てだした。

ハンコックもそれは例外ではなく、口惜しそうな顔で表情を歪めると、ついに女帝が折れた。

「も、もうよい! わらわはこの男の存在に耐えられぬ!」

「おいおい、ちゃんと仲間は元に戻してもらうぞ?」

「……わかった。その代り我らの船に手を出すでない!」

「了解。ついでにあんたが能力者だってことも黙っといてやるよ。隠しているんだろう?」

ぼそりとカールが耳打ちすると、ハンコックは顔色を変えて、小声で言い返してきた。

「……なぜそう思う?」

「あん? あんたの仲間のうちの何人かがコルゴンの呪いがどうのと騒いでいたからな。
だがあんたのそれはどう見たって悪魔の実の能力だろ? 
なら意図的に隠している以外仲間がそんなことを言う理由があるのかい?」

「……ちっ、なかなかにさとい男のようじゃ。この変態め」

「なんとでも。俺にやましいところなんて一切ない」

言い切るカールにいよいよ我慢できなくなったのか、ハンコックが叫んだ。

「なお変態だわ! ええいおぞましい! 九蛇海賊団! このような船からはさっさと出るぞ! この男は特別強力なウィルスを持っておる!」

「ウィルスってお前……」

そうしてあわただしく石化を解除したハンコックは、ものすごい速さで海の向こうへと消えていったのだった。

ただ気になるのは、俺好みのいい感じの女の子達もまた俺を見て病原菌を見るような視線を向けてきたことだろうか。

「勝ったんだが……むなしい勝利だぜ」

きらりとカールの目じりには涙が浮いていたとかいないとか。



「む……俺はいったい」

コーンが目を覚ますと、カールがにやりと笑いながら手を上げていた。

周りを見るとレナとファニーが隣りに寝かされている。

それをロカ、ビリー、サンチョが心配そうな顔で覗き込んでいるようだった。

「よう。片付けといてやったぜ? 大将?」

「心配したんだよ!」

そんなことを言われてもこっちは訳が分からないわけだが。

「んん? カールか。何があったんだ?……記憶がはっきりしないんだが?」

そういえばハンコックが攻めてきたのは覚えているのだが、肝心のその前後の記憶が飛んでいた。

「ありゃ? 記憶とんでんのか? まぁ石になんてなっちまっていたら仕方ねぇか……」

ため息交じりにそう言うカールの台詞に俺は慌てて身を起こした。

記憶が飛んでいるってことはそう言うことだろう。

「おいおい! 片付けたって、あのハンコックをか? 相手は七武海だぞ!」

心底驚いて尋ねると、なんともむなしい顔をしてカールは笑った。

「まぁ……相性がよかったんじゃね?」

歓迎すべきことなはずなのに、いまいち喜びきれてないカールに首をかしげる。

七武海を追い払ったのだからもう少し喜んでもよさそうなものだが……。

何となくツッコむのも悪い気がするのはなんでだろう?

「……そういうこともあるのか?」

「まぁ詳しく聞くな。そういうこともある」

こうして、よくわからないところで完結した戦いがあった。


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俺が俺であるために

俺は甲板の上で波風に揺られながら、空を眺めていた。

仲間達に見せたいものがあるからと連れ出されたのがかれこれ一時間ほど前だろうか?

だけど、俺はなんだか気が抜けていた。

「うがー……」

なんだかとっても力が入らない。

空に行ってからというもの連戦続きで息つく暇もなかった反動か、俺は真っ白に燃え尽きていた。

そのうちの何割かは夢がかなった達成感もあるのは間違いないだろう。

帰ってきて我が船の倉庫の現状を見た時、俺は震えた。

なんたって、それは宝物庫という表現がぴったりだったんだから当然である。

それは一攫千金どころの騒ぎではないくらいに夢の光景だった。

「……はぁ」

だが今俺はため息を吐いている。

それは恍惚としてとか、そう言ううらやましい類のものではなくて、困惑とか戸惑いとかそういうものなのだろう。

「……これからどうしようかな?」

まさしく今抱えている問題はこれだった。

目標の消失。これだけならまだよかったが、巨万の富というやつは手に入れてしまえばちょっとばかり内情が変わってしまう。

すなわち、どう考えたって危険を冒してまで冒険する必要なんてないのである。

これはすごく問題だった。

「……俺だけならまだしもなぁ。一緒に命かけてくれなんて言えないよなぁ」

一人で呟いて、さらに落ち込んでしまった。

そして俺は宴会の後、枕元に置いてあった手紙を思い出していた。

やたらと達筆な手紙には、いきなり「あなたのファンより☆」なんて書いてあったものだから思わず破って捨てそうになったりはしたが……内容自体はそれなりに印象的だった。

それは孫悟空からの手紙だったのだ。

あの神様は、俺がかばった猿の嘆きようを哀れに思って、今回のこと実行する気になったんだそうだ。

自己犠牲も結構だが、命はそう安いものじゃないので大切にするように、そして今回の選択でも少なからず悲しむ者がいたことを忘れないようにと釘を刺したうえで、それでもためらうことなく悔いのない人生になることを願っていると締めくくられていた。

何気に最後の最後で神様っぽいことをいうのは反則だと思う。

言われてみればその通りだ、向こうの家族や友達は悲しんでくれているのだろう。

かといって、こっちで死んでいたとしても悲しむ人はいただろう。

選択自体に後悔はない。

生死の境で俺はこっちでの仲間を放っておくことができなかったし、こっちの世界でやり残したことがあったからこそ、生き返ったんだから。

しかしさっそくの分岐点が難問だった。

仲間を大事に思うなら、ここで俺が引っ張り回すのもどうかとも思うからだ。

レナはこれだけの資金があれば治安のいい国でしかるべき教育を受けることも出来るだろう。

ファニーも大好きな武器やかわいいものをありったけ買い占めることも可能だし、カールに至っては3億も4億も持って、まだ賞金稼ぎを続ける気があるのかすらわからない。

ロカだって自分用の船を余裕で買えてしまうなら、この船に居続ける意味などないだろう。

そういうわけで、考えれば考えるほど、何とも「冒険に行こうぜ!」とは……気軽に言いづらいわけなのだ。

俺自身としては夢をかなえて満足したのかと言われたら、どこかまだ満足していない自分がいることに気が付いてしまっていた。

俺は今の仲間達ともう少し世界を見てみたい。仲間と俺とをつなぐ縁もまたこの旅だということも理解しているからこそ、まだ終わらせたくはなかったのである。

だがこれは完全に俺のわがままだ。

すぐにでもちゃんと話さないといけないなーと憂鬱に気分のままボーっとしていると突然視界が真っ黒になった。

「コーンさん! 着きましたよ! ちょっと目隠ししてくださいね!」

「お、おう」

レナがいきなり黒い手ぬぐいを巻き付けてきたらしい。

なんで目隠しなんだろう? そうは思ったが、疑問をはさむ余裕もないまま後ろからぐいぐいと押されて船を下り、誘導されること数分。

足の手ごたえは砂利ではなくなり、何かの建物に入ったようだった。

「ほらさっさとしろ、こっちだ」

「こけるなよ。こっそり見たらぶっ飛ばすからな?」

ファニーが何やら彼女らしくないいたずらっぽい声で先導して、カールが俺の手を引いている。

「見たらびっくりするよ! なんかわくわくするね! ビリー! サンチョ!」

「ワウ!」

「ソウダナー!」

そして後ろから、ロカとジョニーとサンチョの気配も感じていた。

なんか余裕がなくてあんまりよく考えずに付いてきてしまったが、ここはいったいどこなのだろう?

なにか、籠ったような音の響きからすると倉庫のようだが、まったく心当たりがない。

しばらくして、立ち止まる。

「もういいですよ。覚悟はいいですか?」

レナがもったいぶって目隠しを外し、視界が自由になると、俺の目の前には巨大なものが聳え立っていた。

最初建物かと思ったが、そうじゃない。

「……こいつは」

巨大な船体を倉庫に固定され、見たこともない船がそこにあった。

それは巨大なガレオン船だったのだ。

俺は言葉を失って、それをしばらくぼんやり見入ってしまっていた。

そんな俺を見て、みんながニヤニヤと笑っているのが分かった。

「……これ、いったいどうしたんだ?」

何とか言葉をひねり出すと、答えたのはカールだ。

「今回相当の金額稼いだだろ? だからなんかすげーもんを買おうってことになってよ。全員で決を採ったら満場一致で船になった。今までの船はもうずいぶんくたびれてたからなぁ。これから旅するにも必要だろう? 装備も全部最新型だぜ?」

「それでガレオン船って……お前らどうやって動かすつもりだよ?」

「それは、お前のプチコーン頼みだろ? たくさん出せ」

さも当然のようにファニーが言うので、拒否権はなさそうである。

「……はさみ買ってきておこう、禿げそうだ」

内心動揺していたが、あえておどけて言ってみる。

そして誰よりも楽しみそうなのがロカだった。

「……はぁ何度見てもいいよねー。これが僕達の船になるんだよー? あの竜骨とかもう芸術的だよねー」

うっとりと船を恍惚とした表情で眺めているのだが、ものすごく楽しそうである。

「それで! コーンさん! 次はどこに行くんですか!?」

満面の笑みを浮かべて元気にそう聞いてきたレナ、そして期待に満ちた目で俺を見るみんなの顔を見て、俺の悩みがバカみたいなものだったんだと確信できた。

そうか……みんな旅を続ける気でいてくれたんだ。

それは涙が出そうなくらいうれしくて、本当に泣いてしまうには笑顔が邪魔な気分だった。

自分の居場所がしっかりとわかる。

今ではさっきまでの陰鬱な気分など、すっかり消え失せていた。

「……そうだな! どこに行こうか? 今ならどこにだって行けそうだ!」

俺がそういうと、仲間達の目の色が変わった。

「俺は! 小人の国をさがしにいきてぇ! 巨人がいるんだからグランドラインならいると思うんだよ! 成人しても小柄な……あわよくば憧れのエターナルロリー……ゴフ!」

「和の国に行ってみるのはどうだ! あそこは侍の国らしいからな、見たこともない武器がごまんとあると聞いたんだ!」

「僕は、この船でならどこにでもいきたいなぁ……。せっかくだから魚人島に自慢しに行こうよ!」

「私は、私は! コーンさんの故郷とか行ってみたいです!」

我も我もと詰め寄ってくる仲間達の迫力に気おされて一歩引く俺。

どうやら、今回の冒険では満足には程遠かったようである。

……よし、わかった。どんと来い!

何の因果かこの世界に流れ着き、寿命を終えてまで生き残ってしまったわけだけど、これでよかったんだと胸を張って言える。

俺は仲間を見回して、笑いを必死に堪えていた。

こいつら、最高に面白すぎる。

「じゃあ、船が出来たらさっそく行こう! やりたいことは全部やるぞ!」

そうして俺は新しい冒険にまた一歩踏み出してゆく。

お宝は手に入れた。

一攫千金の夢はかなった。

だが夢が続く限り、旅はまだ続くのだろう。

俺が俺であるために。


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帰ってきた俺

「……はぁ、帰ってきませんねぇコーンさん」

「青海に降りてからそればっかりだなレナは」

ここはとある島のとある海岸。レナ達は無人島に停泊していた。

そして現在船の船室には所狭しと現金入りのアタッシュケースが詰まれている。

宝物庫にはそれに負けないくらい黄金の山が未だに換金しきれずに山吹色の光沢を放っていた。

つまるところ、彼らは大金持ちになっていたのだ。

「あっはっはっは! 笑いがとまらねぇよ! こんな金額見たこともねぇ!」

「うん! これならなんだって買えちゃうね!」

「そうだな! 武器だって名刀から最新のものまでより取り見取りだ!」

「……そうですねー。ホントなんでも買えちゃいそうですよねー……」

「……」

「……」

「……」

全員気まずげにレナを見る。

レナはずっとこの調子だった。

青海に下りてきてから、彼らはマクシムの換金に精を出した。

コーンのことが心配じゃないわけではなかったが、彼と唯一別れの言葉を交わしたレナが大丈夫だと断言したためである。

換金には用心棒として培った商人との繋がりが役に立った。

知り合いの商人の中でも比較的良心的な人物にあたりをつけて事にあたると、彼らにとっても空で手に入れたものは魅力的であるらしく、問題なくその手腕を発揮してくれた。

空島で大量に交換したダイヤルや、マクシムに積んであった分の財宝も含めると相当量になる。

どれも途方もなく価値があり、その金額があまりにも大きすぎてそん所そこらの換金所ではとてもじゃないが間に合わなかったほどだ。

そしてこの一週間走り回り、こうして船内にはお金の山が出来上がっているというわけだ。

あいつは夢を叶えたのだとクルーの誰もがそう思った。

だが肝心のあいつがまったく帰ってこないのである。

そして、大丈夫だと言ったはずのレナがこの調子ではさすがに黙っているわけにもいかなかった。

「レナちゃん、あんまり気にしすぎるのはよくねぇよ。ここは海なんだ。誰かが帰ってこなくなるなんて事は珍しい事じゃない」

「……カールは、コーンさんが死んじゃったと思う?」

いつもと違う上目遣いと涙目に、さすがのカールもひるんだ。

「う……。いや俺だってそうは思いたくはねぇ。というかあいつが死ぬなんて事が想像できねぇ。でも戻ってこない事もあるってことは知っておくべきだと思う」

そしてカールはいつになく真剣にそう言った。

「それは冷たいんじゃないかな? 信じて待ってればきっと帰ってきてくれるよ!」

ロカはそう励ましていたが、レナの顔色が晴れることはなかった。

実はレナはあれから、「一週間待っても帰ってこなかったら」という伝言を、みんなに伝えていないのだ。

「また」と約束したからだ。

でも、今日で約束の一週間。そろそろみんなにも伝えないといけないかもしれないと、レナは憂鬱な気分でその日を迎えていたのである。

「……コーンさん、ああコーンさん」

しかしそう簡単に割り切れるものでもなく。

机に突っ伏して唸っているレナは傍目に見ても、変な子だった。

「重症だな」

「無理もないが」

レナもすっかり賞金稼ぎ稼業になじんではいるが、女の子で子供なのだ。

慕っていた人間が行方不明ともなれば、取り乱さない方がおかしい。

その点、カールやファニーはそのあたりのことは十分すぎるほど理解していた。

海で戦うとはそういうことだ。

いつまでも希望にすがって相手を待つのは美談ではあるが現実的ではないだろう、囚われていては自分達も命を落としかねない。

それでは帰ってこない仲間も決して浮かばれないだろう。

どう言ったものかと、二人も二人で頭を悩ませていた。

だがそんな時、ワンワン騒がしい鳴き声が海岸のほうから響いたのだ。

どうやらビリーのようだが、海の向こうから何かが近づいてきているようだった。

慌てて戦闘準備をして外に飛び出すと、海の向こうから船がこちらに向かってきているのが見えた。

「あれは……」

ファニーが目細めて、その船を確認する。

海賊旗だ、でもその旗には見覚えがあった。

船はまっすぐこちらに向かってくると、海岸に着ける。

船の旗には大きな麦わら帽子の髑髏マークが描かれていた。

「悪かったな、こんなとこまで寄り道さて!」

「いや! かまわねぇよ! なぁナミ!」

「うん! コーン! こっちこそ黄金の場所教えてくれて感謝してるわ! まだ縁があったらどこかで会いましょう!」

「ああ! またどっかで!」

船から降りた男は遠ざかっていく船に手を振って見送り、そして大声を張り上げた。

「おいルフィ! 海賊王! 期待してるからな!」

「任せとけ! コーンもまたな!」

船が見えなくなるまでそうして、コーンはぴたりと動きを止める。

そして決まりが悪そうに振り返えると。

「ただいま……」

何とも複雑な表情で仲間達に笑いかけた。

「コーンさん! やっぱり無事だったんですね!」

「生きてたのかよ!」

「何やってたんだ!」

「よかったー! 死んじゃったかとおもったよー!」

仲間達は思い思いの表情で彼を迎え入れコーンを歓迎していた。

「ああそれが……まぁなんとか生き延びたよ」

コーンは頭を掻いて、あの後のことを語りだした。





目を開けるとそこは見慣れないテントの中だった。

「……意識を取り戻したぞ!」

「あら大変。早く船長さん達に知らせてあげないと」

「! おれ知らせてくる! それとお前! まだ安静にしてなくちゃダメだからな!」

「フフフ、心配性ね。私が見ておくから大丈夫よ?」

「ルフィの知り合いはすぐに無茶して動き回るから釘刺したんだ。じゃあおれ言ってくる!」

「そうね、気を付けておいくわ」

「うん! じゃあ頼んだぞ! ロビン!」

「……」

てこてこ妙な生き物がテントから外の出ていくのが見えた。

ピンクの帽子に角の生えた小さな動物のようだったが、なんともラブリーだった気がする。

もふもふしてみたいものである。

そして黒髪の美女が俺の顔を覗き込んでいたものだから、俺は固まった。

「調子はどう?」

「ああ……悪くない。ここはいったい?」

女性に尋ねる、すると彼女はすんなり教えてくれた。

「アッパーヤードの仮設テントよ。船長さんが連れてきたの。詳しいことは知らないけど、貴方船長さんと戦ったのよね?」

「ああそうだよ……」

ぼんやりとした頭で空での戦いを思い出す。

そういえばさっきまで戦っていたんだった。

いや、さっきまで? 本当にそうだろうか?

考えてみればあれだけの戦闘だ、気を失ったとして数日たっていてもおかしくはない。

「……俺はどのくらい寝てた?」

恐る恐る尋ねてみる。

「そうね……だいたい二日くらいかしら?」

だが彼女の言葉に俺はほっと胸をなでおろした。

よかった。これで約束の日に帰れないという事はなさそうだ。

そして落ち着いて考えると色々と思い出してきた。

結局俺は途中までいい勝負をしていたのだが、勝てなかったのだ。

戦いの中でガンガン強くなっていくルフィ。それに対して死に体の俺の体力は限界を超え。

気を失う寸前、腹にものすごい鈍痛が走り抜けたのが最後の記憶だった。

「あれから俺は?」

「それは気になるなら船長さんに聞いてみるといいわ。私達は鐘の音を頼りに集まって、その時にルフィが貴方を抱えて戻って来てからしか知らないから。それからゲリラの人達と話をしてここまで来た」

「そっか……ところであんたは?」

何となく目星はつくものの、俺は一応尋ねてみた。

すると彼女は俺のことをしばらくじっと見つめてから、静かに口を開いた。

「……ルフィの仲間で信じてもらえるかしら? でも貴方なら知っているんじゃない? 賞金稼ぎのコーンさん? それとも『光弾』の方がよかったかしら?」

口に出させてしまって、やはり彼女がニコ・ロビンだと確信するまでに数秒。

気が付いてからは、ああなるほどと納得していた。

「ああ、そっちの方で呼んでくれるんだ……」

「?」

「いやなんでもない。……まぁいちおう知ってはいると思う。ニコ・ロビンであってるかな?」

「そう、やっぱり知っていたのね……。貴方は私を捕まえに?」

少しばかり鋭い視線を向けられて、俺は何と言ったものかと頭を悩ませた。

警戒を強めるのも当然だろう。

彼女にとって賞金稼ぎとか政府の人間なんかは最も警戒しなければいけない人種なんだろうから仕方があるまい。

でも、俺にその気なんてない。

だから言っておいた。

「……俺は友達の仲間に手を出すほど落ちぶれちゃいないよ」

これだけじゃ警戒が解かれるはずはないとそう思っていたんだけど、以外にも彼女はあっさり引き下がってくれて助かった。

「そう……気を悪くしないでね。立場的になんでも疑ってかからないといけなかったから。船長さんにも大丈夫って言われていたんだけどね」

「そりゃどうも。だけどそれならルフィのところは居心地がいいと思うよ。あいつは警戒するのがばかばかしくなるくらい裏表がないから」

「フフッそうね。随分楽だわ」

そして俺達は共通の友人の顔を思い浮かべて笑いあった。

「これからもあいつと仲良くしてくれるとうれしいよ。あいつ馬鹿だから頭のいい仲間は多いほうがいい。出来ればあいつをだまさないでくれるとうれしいかな?」

「そんなことはしないわ。意味がないもの」

「うん、今はそれでいいよ。……おっと、噂をすれば来たみたいだ」

騒がしい声が聞こえてきてテントの入り口に目を向けると、見覚えのある顔が数人雪崩込んできた。

「コーン! 気がついたか! すごかったなーお前! あのきんぴかのどうやってたんだ!」

「大丈夫なの! なんかとんでもないことになってるから心配したんだから!」

「すっげー大怪我だって聞いたぞ!」

「……あー。大丈夫か?」

ルフィとナミには大きな隈が出来ている。

しかしルフィ。俺とあれだけ殴り合ったと言うのにもう動き回れるとは呆れた回復力だと思う。

ウソップとゾロもなんだか薄汚れた格好をしていた。

続いて入ってきたサンジはシチューの皿を持ってきて、その後ろを小さなトナカイがちょこまかついてくる。

「シチューでいいんだよな?」

「うん。最初は消化がいい物のほうがいいよ。ダメージが深かったから」

……どうやら知らない間に多大な迷惑をかけていたらしい。

俺はなんだか恥ずかしくなって結局笑ってごまかした。

「悪かった、なんか世話かけたみたいだな」

思わず頭を下げると、ルフィは満面の笑みでバンバン俺の肩を叩いた。

「気にすんな! 水くせぇ! だけど勝負は俺の一勝だぞ!」

ムンと胸を張るルフィに俺はそこは負けを認めておいた。

「ああ、勝負は俺の負けだ」

「よし! じゃぁ次にしなきゃいけないことはわかるよな?」

「……なんだよそれ?」

だが意味が分からず聞き返す。

するとルフィは隣のウソップと一緒にやれやれとでも言いたげに首を振っていた。

「あんなこと言ってるぞ?」

「……ああ、人間失格だな」

「な、なに?」

「決まってるだろ!」

ルフィは断りもなくテントの入り口を全開にした。





「とまぁそういうわけで、船もないんでルフィ達に送ってもらってきたんだよ! いやぁ大変だった。でも安心しろ! 空の人達にはしっかりマクシムのこともエネルのことも伝えておいたから。マクシムは縁起の悪い船だからもらっちゃっていいってさ! 太っ腹だよ空の人!……」

不自然に明るく振る舞うコーンに、レナが釈然としない表情を向けていた。

「……どういうわけかわかりませんが、目を覚ましたのってあれから三日後ですよね? 今までルフィさん達の船で療養してたってことですか?」

レナの質問にコーンは気まずげに視線を逸らす。

「あの……えっと巻き込まれちゃって」

「何にだ? また何か厄介ごとにでも?」

すかさず突っ込んできたファニーにコーンはいよいよ観念したのかごくりと唾を飲み込み。

「えっと宴会に……」

と口を割る。

その後クルー全員から愛のある一撃を貰ったのは言うまでもない。


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